【小説】「でももっと怖いのは、自分の赤ん坊に会わなきゃならないってこと」たべものとひとのなまめかしいいとなみ”妊娠カレンダー”小川洋子
妊娠中、小説を大人買いした。
よこになっているのが一番楽で、活字中毒の私にとって、
とても贅沢な時間で、まるで本当に夏休みが来たような気持ちになった。
今回読んだのはコチラ。
この、作品を食べ物に例えると…
目次
【ヨーグルト、リンゴ、オレンジ、食パン、ブルーベリージャム、サラダ、牛乳。家族のいつもの朝食】
あらすじ
出産を控えた姉に毒薬の染まったジャムを食べさせる妹……妊娠をきっかけとした心理と生理の揺らぎを描く芥川賞受賞作「妊娠カレンダー」。謎に包まれた寂しい学生寮の物語「ドミトリィ」、小学校の給食室に魅せられた男の告白「夕暮れの給食室と雨のプール」。透きとおった悪夢の様にあざやかな三編の小説。
感想:★★★★
22年前の作品らしいですが、すとんと入ってきました。
妊娠カレンダーは、姉の妊娠を客観的に見ながら嫌悪と興味と、得体のしれない怖さを抱く妹の話し。
「でももっと怖いのは、自分の赤ん坊に会わなきゃならないってこと」
彼女は突き出たお腹に視線を落とした。
「ここで一人勝手にどんどん膨らんでいる生物が、自分の赤ん坊だってことが、どうしてもうまく理解できないの。抽象的で漠然としてて、だけど絶対的で逃げられない。
朝目覚めると前、深い眠りの底からゆっくり浮かび上がってくる途中に、
つわりやM病院やこの大きなお腹やそんなものすべてが幻に思える瞬間があるの。
その一瞬、なんだ、全部夢だったんだって、晴れ晴れした気分になれるの。
だけどすっかり目が覚めて、自分の進退を眺めてしまうともうだめ。憂鬱になってしまう。
ああ、わたしは赤ん坊に出会うことを恐れているんだわって、自分で分るの」
P68 妊娠カレンダー
この物語は出産後に呼んだけど、結構共感した部分があって興味深かった。
妊婦である姉にも共感するし、得体のしれないものが生活空間の中に、
というか同居中の姉の中におるっていう、
どう扱っていいかわからんけど、大事なものって頭ではわかるけど、
得体が知れなさ過ぎて怖いという妹の気持ちもよくわかる。
日常の中で体感することのない体の変化に、本人はもちろん、
周りの人も巻き込まれていく事件が妊娠。
においや、食べ物、動作など、本当にまだ見えてない「赤ん坊」に一部支配されているかのように、
いつもどおりがかなわんなる感じ。
しかもその得体のしれない何者かは、
近しい人が、そしてその旦那と作り上げたという、本当に、
飲み込みにくい事実。
「妊娠」をうまくとらえられなかった自分としてはきょうかんするところが多かったです。
でもこの一冊に★4つつけたのは、「ドミトリィ」が心に残ったから。
その年の春は曇りの日が多かった。毎日空が冷たいすりガラスに包まれたようだった。
P87 ドミトリィ
もやがかかった春を感じる一文で物語の中に吸い込まれる感じ。
この物語に色がつきました。
「心配なことは何もありません。ただちょっと、胸の奥のあたりが緊張しているんです。僕の周りが何か新しい展開を見せる時は、いつもこんな気分になるんです。お父さんが死んだ時も、好きな女の子が転校した時も、かわいがっていたひよこが野良猫に食べられる現場を見ちゃった時も」
「そうね。一人で暮らすというのは、何かをなくす時の気持ちに似ているかもしれないわね」
P98 ドミトリィ
この物語りで好きなのは、両手と片足がない経営者、「先生」と主人公のやりとりが脳裏に焼き付くところ。
主人公がいつももっていく甘いものを片足と首と胸の骨を使いながら器用に食べる先生との描写が
今まで見たいことのない場面を思い起こさせるし、
心身共に、ギリギリで限界にゆっくり近づいていく先生の容体や
心の変化がゆっくり朽ちていく果実の様で頭の中に残る。
三篇とも秀逸。
このきれいな毒感は素敵。
というわけで小説好きにも、妊婦さんにおススメの一冊です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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プロフィール
高知出身の1986年生まれ(五黄の虎)
18歳で脱藩、京都、金沢、富山高岡、能登半島住の転勤族。北陸か高知に大体おります。いつの間にか本籍は新潟県佐渡島に。一児の母。
元肉食系広告代理店勤務だったので、恋愛やお店のPRに関してのアドバイスが得意。
フェイスブック、ツイッターのメッセージ、そしてコチラでもライティングやインタビュー依頼、ブログでやってほしいこと受け付けます。
さかもと みき 作『坂本、脱藩中。』はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
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1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。
転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。
家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。
2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。
この記事を書いた人
1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。
転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。
家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。
2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。
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