よだれを垂れ流しながら待っていた舞城王太郎の新作。
本当に、本当に待ち焦がれていた。
長編でも、短編でももはやどちらでもいい。言葉をくれ、舞城王太郎の言葉をくれ状態からやっと手にした新刊。
よかった。舞城王太郎信者は即座に摂取すべきです。
普通のちょっとななめ先にありそうなきもちい&きもちわるい&こわいの詰め合わせ
<あらすじ>
僕の両目は舞城王太郎の言葉を駆け抜けるためにある。
ーー木下龍也(歌人)遠くで小さく光るあの七つ星は世界が爆発して出来た超新星。
ドカンって音は、読み終わるころにやってくる。言葉が並んで爆発した星を、七つ並べてもっかいドカン!
<収録作>
奏雨 「人は空想なんかしない。連想するんだ」と雨の日の名探偵。
狙撃 俺はマークスマン。弾は当たる。時々消える。
落下 「や…ヤブヘバス!」と父が慌てふためき、飛び降りは続く。
雷撃 積乱雲と呼ばれた女の子。石につきまとわれる男の子。
代替 俺がお前になって、お前はどこいったんだよ?
春嵐 ストーミー・エヴリデイが素敵な散歩を招くまで。
縁起 妻の海の邪悪な豚が息子をさらいにやってくる。
感想:★★★★★
かわんない最高の言葉の吸引力と気持ち悪さで一気見してしまった。
終わるのがもったいないのにページをめくるのを辞められない。
最初「これはあんますきじゃないかも」と思っても結局全部すきで捨て短編なしでした。
奏雨
事件の序盤から「SAW」みあるなと思ってたら、そうで、事件が自分におきたら自分はどうするだろうと思っちゃうあたり、気づいたら物語にぐいっと入ってた。
頭の中に浮かんでくる、被害者の絶望と、恐怖、そして犯人の仕掛けへのこだわりと期待。想像力と連想力の展開が面白い。
刑事と奏雨の関係性も短い中にぎゅっと凝縮されてて愛おしくなる。
狙撃
イメージ的にチェーンソーマンとか、ジョジョの世界に近いものを感じる。小説だと、「同士少女よ、敵を撃て」を思い出した。
テーマは世界のバランスの均衡。
ありえないけど、私も世界はやっぱりそんなちょっと無理やり均衡をとっている部分があるんじゃないかなと思うときもある。
どうにかしなければならないものが野放しになっている。
舞台は海外って感じかな。でもこうやってカジュアルに戦場に出ていく未来が来てしまったらどうしよう。
命が軽くなって、ぱっと消えてしまうことに抵抗がなくなるのかな。
フィクションなのに、現実の色が混じり始めていると感じてしまうのも怖かった。
落下
個人的には結構好きな話「おそれ」はあると思う。
マンションという人の感情の入り乱れた集合体に現れた得体の知れない黒い影と音。
人は慣れるけど、それは臭いものには蓋をするのと同じなのかなとも思えてちょっとこわかった……。
ら、最後頼りないお父さんがバシッとサクッと解決してくれてすごく気持ちよかった。
舞城王太郎の作品はそれぞれにいい感じにねじ曲がったり、突き放したり、きれいに回収したり、キレがよかったりそういうのが入り混じってて本当に読後が気持ちいい。
雷撃
石、こっわ。石に取り込まれそうな主人公もこっわ。
CBは光で、やわらかくて、キラキラして、気持ちが一瞬高校生に戻ってしまった。
石がなくても、子の頃ってなんかしら不満や不安があって、もんもんとして、近くて遠い異性と共存する特異な時間やったよなって思い出した。
最後あたり、石もかわいそうになったけど、魂が人から抜けた後、何に入って、どうなっていくのかとか頭をよぎる、日本らしい神様を感じる青春短編。
代替
切なくて死にそうになった。
関わる人の不幸を想像してしまって痛かったし、本人のことを思うとまた痛かった。
ある同級生を思い出した。
暴れん坊で手の付けられない成績の悪い問題児がある日、行きたい高校のために図書館で勉強するようになって、志望校に合格し、今では病院で看護師として働いて命を救ってる。
彼も中身が入れ替わったのかな。
人の中に小さくてもそういう願望があれば、変われるのかな。
でも、変わるのは容易くない。捨てない限り、新しいものは入らない。
人が複雑なのは、そういうところじゃないかな。
呼んでいて泣きそうになった。それは、視点への共感からかなぁ。どうにかしたけど、どうにもならない、やっとどうにかできた。
そして、その先は、その先の魂はどこにいくんだろう……。思いを巡らせてしまえる、味わい深い、心の中をぎゅっとぎゅっとしていく一本。
春嵐
兄の彼女さんというすごい微妙な位置の人への遠慮と、兄弟という微妙な距離感の人が心配しあったり、入り乱れることで関係性の濃さや重なりや、口では言っても大事な人だと実感してもんもんとしてしまう部分にすごい共感。
誇らしい気持ちと、おいおいという気持ちと、ちょとちょっとという気持ちと……やり場のないきもちはどこへ行くのかと思ったら、夕日に溶けてきれいになった。
人間の感情は面白いし、やっぱり不思議で切ないわ。
なんで夕日の美しさっていろんなものを包んで焼き付けてしまうんだろうなぁ。
見えないけど、見えたわ。美しい夕日が。
縁起
出産育児が身近にあった身としてはトラウマ的一本。
母親が呪い殺される、敵展開までは読めたけど、神社に頭を下げに行って額をこすりつけるまでは見えたけど、最後のぶん投げ修羅場はぜんっぜん読めなくて最高すぎた。
ああ、こういうの読みたくて舞城王太郎の小説を心待ちにしてんのよっていう感じ。
頭の中ぐちゃぐちゃにして踏み込んで、わしづかみにしてぶん投げるこの気持ちよさ。
酒とか嗜好品の比じゃないね。マジで癖になります。
ぐちゃぐちゃハッピーエンド、最高でした。この物語が最後なのもよかった。
読後感最高。旦那に引かれるほどのスピードで読み切ってしまいました。
次の作品が楽しみです。
舞城王太郎先生の新作待っています
最近の舞城王太郎先生さまは、多彩な才能がありすぎてアニメの監修とか監督とか原作とか絵コンテとかまでされていますが、やっぱり私は純度100%の言葉というシンプルなもので味わいたいので小説を心待ちにしています。
とはいえ、ハンマーヘッドも見てみるかな。
そしてディスコ探偵水曜日でも読み返そうかな。
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