嫌いだけど親友みたいな女友達のような本「夏物語」川上未映子

月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボ。

本好き同士、毎月順番に一冊本を決めて一緒に読んで感想をシェアしているつぶあんさん(つぶログ書店)とのコラボです。

前回は私のチョイスで、「そして、バトンは渡された」を読みあいました。

※私の感想はネタバレありです。

【オンナノ本ノヨミカタ】

「普通」がコンプレックスだった人に読んで欲しい「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ

【オトコノ本ノヨミカタ】

【コラボ書評】不幸ではない、家族の物語『そして、バトンは渡された』【瀬尾まいこ】

今回はつぶあんさんのチョイスで「夏物語」です。

スポンサーリンク

ぶちゃけ嫌いやけどなんやかんや一緒におる女友だち感のある本

<あらすじ>
大阪の下町に生まれ育ち、東京で小説家として生きる38歳の夏子には「自分の子どもに会いたい」という願いが芽生えつつあった。パートナーなしの出産の方法を探るうち、精子提供で生まれ、本当の父を捜す逢沢潤と出会い、心を寄せていく。いっぽう彼の恋人である善百合子は、出産は親たちの「身勝手な賭け」だと言い、子どもを願うことの残酷さを夏子に対して問いかける。この世界は、生まれてくるのに値するのだろうか―。

感想:★★★★★

まず、最初に、私の憧れる阿部和重の嫁って時点で憎い。

そして、経歴、見た目、センス、全てにおいて嫉妬しかできない。

故に普段はあえて読まないようにしてるんやけど、やっぱり読んだらすごい。

変態の嫁は変態やなって、本当に羨ましくて死にそうになる。

まず、この夏物語、重い。

543Pも女の重い気持ちを書ききれるのすごい。

いややけど目を離せん部分がてんこもりで、物語の中に自分が入ってしまう部分もあり、しんどかった。

私も文章を書いて生きていきたい人やから、痛いほど同調してしまった。

残された熱気とともに夜へむかい、ゆっくりと沈んでいこうとしている夏の夕刻は、いろんなものがこんなにはっきり見えるのに、いろんなものがあいまいだ。懐かしさとか優しさとか、もう取りかえしがつかないことやものたちで満ちていて、そんなもやのなかを歩いていると、おまえはこのまま進むのか、それとも引き返すのかを問われているような、そんな気がしてしまう。もちろん世界の側がわたしに関心があるなんてことはないのだから、これはどこにでもある自己陶酔だ。何を見ても、見なくても、感傷的な物語を立ちあげてしまうこの癖は、わたしが文章を書いて生きていきたいと思うこの気持ちの、足をひっぱるものなのか、それとも応援するものなのか。今はまだよくわからない。でも、いつまでわからないでいられるだろう。それもまだわからない。

P54

多分どの女性が読んでも痛い部分を突かれた一節があると思う。

そこは、作者の狙い通りというか。

そしてこんだけ長いのに、思わず笑ったり、気持ちをきちんとゆさぶられたのもさすがとしか言いようがない。

例えば、笑ったシーンのなかでめちゃくちゃシンプルな真理の話する。

「緑子、ほんまのことってなに、緑子が知りたい、ほんまのことって、なに」
体をぎゅっと縮めたまま泣く緑子に、巻子は静かに訊いた。緑子はしかし首をふるだけで、言葉にならない。卵はどろりと垂れながら、ふたりの髪や肌や服のうえで固まりはじめていた。緑子は泣き止むことができないまま、ほんまのこと、と小さな声を絞りだすのが精一杯のようだった。巻子は首をふり、体を震わせて泣きつづける緑子に小さな声で話しかけた。
「緑子、緑子、なあ、ほんまのことって、ほんまのことって、あると思うでしょ、みんなほんまのことってあると思うでしょ、ぜったいにものごとには、なんかほんまのことがあるって、みんなそう思うでしょ、でもな緑子、ほんまのことなんてな、ないこともあるんやで、なんもないこともあるんやで」
それから巻子はつづけて何かを言ったのだけれど、その声はわたしには届かなかった。

P168

意味を探したがるけど、意味なんてないって、葛藤、私にもあったなぁ。

あれ、いつ「意味なんてない」って私も思えるようになったんやろう……。

一生に一度でいいからこんな風に口説かれてみたい

あと私が好きだったのはここですね。

「それって」とわたしは考えながら言った。「なんていうのか……本物の文学とか、本物の読者とか、そういうようなことをおっしゃってるんでしょうか」
店員が水のお代わりをもってやってきて、それぞれのグラスに注いでいった。仙川さんは少しのあいだ黙ったあと、話をつづけた。
「たとえば、言葉って通じますよね。でも、話が通じることってじつはなかなかないんです。言葉は通じても、話が通じない。だいたいの問題はこれだと思います。わたしたち、言葉は通じても話が通じない世界に生きてるんです、みんな。『世界のほとんど誰とも友だちにはなれない』――誰の言葉でしたでしょうか、あれは本当だと思います。だから、話が通じる世界 耳をすませて、言葉をとっかかりにして、これからしようとする話を理解しようとしてくれる人たちや、そんな世界を見つけること、出会うことって本当に大変なことで、それはほとんど運みたいなものなんじゃないかと思っているんです。からからに干上がった砂漠かどこかでにじんでいる水源を見つけるみたいに、生きることに直結する運みたいなものなんじゃないかって。もちろんテレビで芸能人が取りあげて数万部売れるという運もある。才能のない人には、ないよりはたった一度でもあったほうがいいかもしれない運ですね。でも、わたしが言ってるのはそれよりももっと実のある、持続力のある、強くて信頼するに足る長きにわたってあなたの創作を支える運です。わたしはあなたの作品のために、それを用意できる。わたしとなら、もっといい作品を一緒につくれると思う。それで――会いに来たんです」

P190、191

こんなふうに口説かれてみたい。

最高か。

自分の言葉をつかって、人の心をつかんでみたい。

多分、書き手みんなが潜在的に思うこととして、理解してほしい、理解者が欲しいっていうのがあると思う。

私はここ5年くらいの口説き文句の中で一番心が濡れた。

新しい価値観へのドアを開ける作品

自分も独身、結婚、妊娠、出産を経て、アラサーなって、不妊問題も身近で聞く中で、この小説にはやられたと思った。

そういう葛藤全部詰まっちゅう。

女の、色んな角度からの、もやもやした、なんとなく大声で議論するのがはばかられる本音が、全部ある。

そういう意味で20歳で必読書にしてほしいくらい。

できれば男性も。

例えば、ここ。

「子どもをつくるのに男の性欲にかかわる必要なんかない」
遊佐は断言した。
「もちろん女の性欲も必要ない。抱きあう必要もない。必要なのはわたしらの意志だけ。女の意志だけだ。女が赤ん坊を、子どもを抱きしめたいと思うかどうか、どんなことがあっても一緒に生きていきたいと覚悟を決められるか、それだけだ。いい時代になった」
「わたしも、そう思う」わたしは昂ぶる気持ちをおさえて言った。

P395

極論と思う部分もあるけど、最近こういう価値観の女性って、ビビるほど増えてる。

男性が稼げる人減ってきて、妊娠出産の金銭面のリスクヘッジになるわけでもなく、サポートも期待できない感が漂う中、「自分と赤ちゃんだけでいい」って思ってる女性はかなりおる。

この後、否定ももちろんはいってくるんやけど、でも、それってだんだん減ってくると思う。

多様性を受け入れ選択肢があるこれからの大人

先日、中学校教師の方と話す機会があり、今の若い子不安やっていう話をした。

そしたら、

「今の若い子は、ぼんやりしてるって思う人も多いけど、君らの世代と教育方針が変わったことで、様々な人を自然と受け入れる能力は君らより高い部分がある

って言われた。

なるほど、見えにくいけど、そういう背景の中で、ジェンダーや、新しい価値観を受け入れる能力が伸ばされているんだなと。

そこが自分らと違うから「何あれ」って思ってしまう部分があるんやなって。

そして、そういう教育をうけた子らが、これから妊娠出産と向き合う。

そうしたら、その子らがまた新しい価値観をつくっていくと思う。

自分達の答えを見つけて、その中で生きていくことになるはず。

そういう未来も、面白いし、子どもと親の可能性はひろがりそうやなって、この小説を読んで思った。

【オトコノ本の読み方】

この重ーくて妊娠出産女の気持ちを全面的に出した小説を男性目線ではどう読んだのか気になります!笑

子どもが欲しいということ:川上未映子『夏物語』

The following two tabs change content below.
1986年高知生まれの五黄の寅年、一児の母。 転勤族の妻で今は佐渡島のターン。
スポンサーリンク
スポンサーリンク

2 件のコメント

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

    このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください