大人同士の「理解」の振れ幅について考えさせられた「正欲」朝井リョウ

月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボ。

本好き同士、毎月順番に一冊本を決めて一緒に読んで感想をシェアしているつぶあんさん(つぶログ書店)とのコラボです。

前回は私のチョイスで「暇と退屈の倫理学」を読みあいました。

※私の感想はネタバレありです。

【オンナノ本ノヨミカタ】

https://sakamotodappantyu.com/archives/tuminowadati.html

【オトコノ本ノヨミカタ】

https://ytkglife.net/okuda-dehio-colab-book/

今回は私のチョイスで「正欲」です。

目次

一般的な「多様性」の狭さを痛感できる本

<あらすじ>

あってはならない感情なんて、この世にない。
それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ。

息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づいた女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人物の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。

しかしその繋がりは、”多様性を尊重する時代”にとって、
ひどく不都合なものだった――。

「自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな」

これは共感を呼ぶ傑作か?
目を背けたくなる問題作か?

作家生活10周年記念作品・黒版。
あなたの想像力の外側を行く、気迫の書下ろし長篇。

感想:★★★★★

めちゃくちゃよかった。

正しさとタブー視されることがらのバランスやコントラストが見えやすく、引き込まれながら共感することも多い上に、新しい視点にも出会える本。

2日で一気に読んでしまった。

それでも、これからこの人たちはどうなるんだろうって気になるし、そこから妄想も膨らむ文句なしの小説。

「新しい」オートアサシノフィリア

を久しぶりに感じた小説で、ドキドキがとまらなかった。

自分の想像が及ばない性癖の人の人生

もともと古屋兎丸の影響でオートアサシノフィリア(自分が殺されることに性的興奮を覚える性的嗜好)には認知があって、こういうジャンルの嗜好に生まれてしまったら大変やなっていう認知はあった。けど、子どもを持つようになって、よりペド含め、世間一般的目線(排除を望む側の視点)に偏ってきてたなっていうのを感じるタイミングだったから、余計刺さった。

近年、この「多様性」議論に私は首を突っ込まないように意識して生きてきた。

理由は、めんどくさそうだから。

すべてが平等に認められることなんてないし、小説の中にもあったけど、みんなに知ってほしいというよりは理解者同士つながることには意味があると思う派だったので、そこに属さない人が「理解がありますよ」って主張する必要はないかなとおもってた。

アクションするとしても、わかるっていうのをツイッターのいいねで押すくらい。

権利を振り回すのと、生きづらさを解消するってイコールじゃないなって思う部分もあったし。

とにかく、ろくに理解もできないのに、「わかった顔」をするのも嫌だった

相手が話し始めたら、受け入れたり、聞けばいいなと思う(実際私に対してはそういう人が多い)タイプだったから。

でも、そんな風に思考停止した自分にぶっ刺さったのが、この「正欲」だった。

新しい願いが生まれた

大人になると、結婚も、子育ても、選べることなんてすごく少なくて、ほぼそれが運の上に成り立っているのを思い知る。

うまく回っているのは、運がいいから。

それは自分の性欲に関しても言えるんだなって、視野がこの小説のおかげで広がった。

多分、これを読まずに自分の子どもがそういうことで悩んだら、私も小説の登場人物のように取り乱したと思う。

でも、読んだ後は、「彼らが少しでも生きやすい」よう理解は持とうと思う部分が大きくなった。

それは、全部を寛容するのではなく、作中で彼らが持とうとした繋がりだったり、一個人の生き方に必要以上に干渉しないようにしようという意識。

「明日、死にたくない」を享受できるように、生きてほしいなと。

そういう意味で自分に新しい価値観をくれた出会いとも呼べる小説だった。

読んでよかった。こういう出会いがあるから、読書はやめられない。

【オトコノ本のヨミカタ】

私的にはめちゃくちゃ刺さったけど、つぶあんさんはどうだったのかな。すごく気になります。

https://ytkglife.net/ryo-asai-seiyoku-colab/

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1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。 転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。 家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。 2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。
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この記事を書いた人

1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。
転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。
家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。
2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。

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