コロナ禍時代の30代女にぶっ刺さる金原ひとみの「アンソーシャルディスタンス」

コロナ時代の小説を読んでみたいなーと思い手に取った本作。

久しぶりの金原ひとみでしたが、最高でした。

女性作家って、子どもができたら作風が変わる人も多いけど、金原ひとみ氏は女の部分がかわらず30代にバージョンアップされてるだけでめちゃくちゃ、彼女の作風のままで最高でした。

目次

抑制された生活のストレスと現実のはざまで押しつぶされそうな人々の物語

<あらすじ>

パンデミックに閉塞する世の中で、生への希望だったバンドのライブ中止を知ったとき、二人は心中することを決めた。世界を拒絶した若い男女の旅を描く表題作を初め、臨界状態の魂が高アルコール飲料で暴発する「ストロングゼロ」など、あらゆる場所でいま追い詰められている人々の叫びが響き渡る。いずれも沸点越えの作品集。

感想:★★★★★

最高にはまりました。

物語に久しぶりに感情移入どっぷりしながら読めた一冊。

なぜなら、登場人物のイメージが自分や周りの友人とかぶりすぎだから。

「わかる。そうよな。地獄よな」

がどの物語にもあって、ぐさぐさ刺さった。相変わらず読むと痛いくらい共感してしまう。

さすがです。コロナはすごくいややけど、この世界でエンタメにしてくれて苦しさを吐き出させてくれる、こういう物語が救いになるよなって、小説の良さを再確認した感じ。

普通の人にはあまり進められないけど、小説好きには今年一番おすすめしたい一冊です。

ストロングゼロ

堕ちたくなくて、男と酒に溺れていく女がどんどん深みにはまっていく様子がきつい。

好きなものを手放していくときの悲しみと喪失感って、もうわかってるから埋めたいんだけど、絶対埋まらないことをもうわかってるから本当につらいんだよね。

顔を筆頭に理想の彼氏が鬱になったことで、消えてしまった幸せな時間。

大好きなのに、大好きだったのに。もう戻らないことがなんとなくわかった恋は、腐っていく。

読んでて久しぶりに「ああ、この恋は終わる」っていう絶望と、妥協でほかの男と会うときのむなしさをセットで思い出しました。

その世界戦がストロングゼロで加速していく。きっつい。そして、悲しい。そしてストロングゼロのみたくなっちゃうあたり、私にも美奈の要素があったし、もしかしたらまだあるのかもと思うとちょっとぞっとしたよね。

デバッガー

仕事もプライベートも楽しんでいるバリキャリが年下との恋で、一気に小さな穴に吸い込まれていくようにぶっこわれていく物語。

「失われていく若さ」への執着と、「好きな人だから一番の自分でいたい」という純粋な気持ちが根源にあるところがまたもう、すごく痛くて心にぶっささる。

年を重ねることの良さを知っていそうなつよそうな女がこうも簡単にぶっ壊れていくのをみると、本当に「結婚」や「恋人」って精神安定剤みたいなところもあるなと思った。

そういう道も選べたはずなのに、自分を客観視してしまうほど、強い女性ほど、こうやって相手が許しても、「自分」が許せなくなるのかと思うと「素直」になったり「ずぶとく」なることの必要性をすごく感じる。

加齢プラスの自分改造はハッピーエンドに繋がりにくいけど、少しでも良くなりたいきもちが痛いほどわかって悲しくなってしまった。

私も子ども3人仕上げたので、顔の大きなシミをとるのが当面の目標です(仕事がんばろう)。

コンスキエンティア

大学時代20代によくいるダメ男の典型パターンと世話焼き気質の女の話。

旦那とのレスからの不倫。

割り切ってでも割り切れなくて、それを埋めるように、求められるままに流されていく様子がリアル。

悲しみって、理屈じゃ埋まらないから夫婦って難しいのかも。

捨てられない女は、結局何にしがみついても溺れていってしまうんだよね。

そしてその中で描かれるメイクの仕事の聖域感。男によりかかるけど、欲しいものはそこにないのも、リアルでしんどいなぁ。

レスになったらやっぱりつらいんだろうな……。でもすっごく身近な問題で、不倫に走る人もおるけど、そうじゃない人は子どもに比重かけるよね。

女の満たされないは、何かでうめないとやっぱり死ぬんやろうか。

アンソーシャルディスタンス

この本の作品の中では一番か二番目に好き。テクノブレイクも結構好きなのでどっちか。

これはもう、私の親友の「死にたいちゃん」まんまですごいなって思った。

一定数おるんよね。この「死にたい」けど死ねないけど「死にたい」人。

パフォーマンスじゃないんよね。ただ、本当に本音なの。でも、死ってそれらを凌駕するめんどくささがある。

私も彼女と付き合っていく中で長い間理解できなかったけど、数年前からその本心が理解できるようになってきた。

この物語の皮肉な点は、冒頭、本当に死ぬのが死にたがりの彼女のお腹に宿った命ということ。

そして、その命があったらを二人で見てしまったところ。

彼女たちが今後、どう生きていくか、そこに光があればいいのにと思わずにはいられなかった。

テクノブレイク

どろっどろのべたっべたに気持ち悪い物語ではあるけど、角度を変えると、辛いものが好きで体の相性がいいカップルがコロナ禍の価値観の違いですれ違って別れた物語ってだけなこと。

それをこんなにグロテスクに書ける金原ひとみ氏の才能に嫉妬するよね、単純に。

ストレスと依存って、切り離せない問題で、それぞれのトリガーやハマるものは別だけど、他人事じゃないなっていう感じが、共感できる分リアルでちょっといい感じにしんどいのよね。

今、SNSやニュースで見える部分って、「辛いものが好きで体の相性がいいカップルがコロナ禍の価値観の違いですれ違って別れた物語」の部分だけやと思う。

それをさ、こんなに内臓ぐちゃぐちゃの状態を見せるみたいににさ、かけるのは本当にすごいよ。

堕ちていくときの気持ちよさと、止まらなさを知っている「人間」には、刺さってどうしようもないよね。

ああ、最高の物語たちでした!

コロナ禍時代の傑作

いろいろとはばかられる時代にこそ、出しづらい部分を代弁してくれる何かが必要で、その役割を担うのはやはり小説やと思う。

そんなことを思い出させてくれる小説でした。

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1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。 転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。 家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。 2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。
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この記事を書いた人

1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。
転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。
家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。
2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。

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