人間とは体の器、何を入れるかで変わる「某」川上弘美

月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボ。

本好き同士、毎月順番に一冊本を決めて一緒に読んで感想をシェアしているつぶあんさん(つぶログ書店)とのコラボです。

前回は私のチョイスで、「桜の森の満開の下・白痴・他十二編」坂口安吾を読みあいました。

※私の感想はネタバレありです。

【オンナノ本ノヨミカタ】

56年前の日本でも人は同じように悩み、こじらせてる「桜の森の満開の下・白痴・他十二編」坂口安吾

【オトコノ本ノヨミカタ】

【コラボ書評】文学によって生と肉体を照らし出す:坂口安吾『白痴』ほか

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自分の人生に厚みも重みも責任も持たない「生きもの」に違和感をもたない

<あらすじ>

名前も記憶もお金も持たない某は、丹羽ハルカ(16歳)に擬態することに決めた。変遷し続ける“誰でもない者”はついに仲間に出会う―。愛と未来をめぐる、破格の最新長編。

感想:★★★

面白かった。

人間じゃない「誰でもないもの」は宇宙人とかそういう人間以外の生命体なんだけど、すっごい違和感がない。

読んでも、「ああ、こうい人いるわ」って。

もしかして実際こういう生き物が生活の中にもたくさん紛れてるんじゃないかなって不安を覚えるくらい。

もしかして旦那も?みたいなw

テンション低いけど、どんどん読み進められます。

個人的には熱量感じる文章の方が好みなので★3です。

人間以外が人間を観察することで見えてくる人間の性質

これを読んで感じたのは、人はあらゆる経験や過程、感情を知ることで人間になっていくんだなということ。

それを割と低いテンションで客観的に見ていける面白さのある一冊でした。

人生はコツさえつかめばうまくいくような部分があるのも事実。

「ついこの前からだったとしても、今はれっきとしたXY染色体の持ち主だっていう検査結果も出てるし、それに、何もしないで女に好かれてるんじゃなくて、必死に信号を送りつづけ、女性一般の気に障ることは極力せず、清潔を心がけ、誠心誠意会話をおこない、相手の興味の対象にぼくも興味を抱き、してほしいことをしてほしいタイミングでおこなうよう勘を研ぎ澄まし、それでも失敗を繰り返し、その失敗をフィードバックし、新たな手腕を身につけ、毎日努力をかかさず、ようやく数名の女たちとセックスをおこなうことができているのです」
P45.46

そしてそこに絡みついてくる人間独特の感情のめんどうくさい絡まり方。

それを避けて生きることもできるけど、そもそも生きることって、パワーがいる。

万能じゃなく、それぞれ個体値によって性質が異なるのも面白い。

個人的に子どもを育ててる今読んでよかったなと思えた。

四歲児と変化しつつ、みのりと一緒に大きくなってゆく時間を過ごしてみてわかったのは、子どもは器なのだ、ということだった。
子どもは、さまざまな形の器。
たぶん人間の子どもは、遺伝というシステムによって、おおまかな形を決められている。だから、それぞれの人間は、少しずつことなる形の器となる。
けれど、そのなかみは、まだ注がれていない。なかみを注がれることを、子どもたちは、待ち受けているのだ。
面白かったのは、あたしのすぐ隣にいて成長してゆくみのりに注がれるものが、いっけんだめにみえるものだったとしても、それがみのりという器に、必ずしも悪いというわけではないことだった。反対に、いかに素晴らしいものが注がれたとしても、それがいい結果を生むとは限らない。
P285

器に、何を入れるか。

いいものを入れていけばいいわけではない。

そこらへん、すごく共感した。

人間の根源を考える哲学的物語

そんなわけで、人間を客観的に見ることができる面白い一冊でした。

川上弘美さんは日常の細かい変化を上手に説明してくれるので、そこも面白かった。

「蔵先生は、結婚しているんですか」
「してるよ」
「奥さんとは、セックスをおこないますか?」
「あんまりしないね」
「する時も、あるのですか」
「ときどきはね」
「その時、とてもセックスをしたくて、するのですか」
「うーん、そうでもないなあ。なんだかこう、保証のような気持ち、かなあ」
「保証」
その昔、蔵医師がその妻と恋人どうしだったころ、蔵医師はさかんに将来妻となるその女性とセックスをおこなったものだった。セックスは、今とれたばかりの海の生きもののように新鮮でぴちぴちと元気に跳ねるがごとくのものだった。毎日のように自分たちは海へゆき、さまざまな海の生物を漁った。結婚し、子どもが生まれ、十年二十年と時がたち、やがて蔵医師とその妻のセックスは間遠になった。そもそも相手とセックスをしたいという欲望が、ほとんどなくなりつつあった。相手は大切である。愛してもいる。尊重もしている。そして性欲は減退しつづける。

P84

夫婦間の問題

人はどこから来るのか

人がいる意味

存在意義

愛するとは

死ぬとは

無機質なのに、たまに心に響くのは、自分も同じようなことで悩んでるからだろうなと。

暑苦しくなく、ちょっと引きながら、自分について、生き方についても考えることができる良書でした。

【オトコノ本の読み方】

うーん、つぶあんさんはどう読んだのかな~!

【コラボ書評】”誰でもない者”たちの物語:川上弘美『某』

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1986年高知生まれの五黄の寅年、一児の母。 転勤族の妻で今は佐渡島のターン。
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