妊婦で里帰りすると、親友に、
「みき!イルカ読んだ?!妊婦はイルカ読み直さないかんで!!!」
と力説されて、そういえば、昔よんだなーと思いながら本屋にいきました。
読んでるとエスニックなタイ料理をたべたくなるのですが、作品自体を食べ物に例えると…
【まろやかで少し甘い。やわらかくてビスケットにのせて食べたいクリームチーズ】
恋人と初めて結ばれたあと、東京を離れ、傷ついた女性たちが集う海辺の寺へ向かった小説家キミコ。外の世界から切り離された、忙しくも静かな生活。その後訪れた別荘で、キミコは自分が妊娠していることを思いがけない人物から告げられる。まだこの世にやってきていないある魂との出会いを、やさしく、繊細に描いた長編小説。
感想:★★★★
友人のいうように、妊娠中に読んでよかった!!!
内容は結構ドロドロしていて、キラキラしていないし、悪い渦とかがいつこっちを飲み込むかわからんっていうよしもとばなならしい「あっちとこっちの瀬戸際」感もしっかりあるので、
超爽やかキラキラ妊婦本では決してないけど、
「自分の人生が好きで、それでいいから子供は別にいらない」
って真っすぐ思っている主人公の体に「他者」が入ってきて「体がのっとられる」感をいやでも感じるという流れはすごく共感できた。
妊娠して、不安とか、キャリアとか、結婚とか悩みも消えてない人こそ読める良書でもあると思う。
昔は多分、男が男であるぶん、ぐっとこらえて信じられないようなことを外で耐え抜いていたのだろうから、家を守る女の人も包む理由があったのだろうし、自分の男が死ぬのは死活問題だったわけだから女を磨いてつくしていたのだろうけれど、今それがそのままあるのはヤクザの世界くらいで、みななににもこらえてないのに母親だけはしっかり求めている。それが不思議でならなかった。
ただ、いつも思うことはあった。
それは、人は人に優しくされたいのだな、ということだ。
誰もが人に話を聞いてもらいたいし、見ていてもらいたいし、優しくされたいのだ。そうされないととても淋しいのだ。中略
優しくしてもらいたいという気持ちのひずみが、他人に母親を求める気持ちに通じていくのだな、となんとなくそういうときいつでも思った。そしてきっと女性は男性に父親を求めていって、お互いが欲しがるばかりで与えることもないから、すれ違う欲求不満のエネルギーだけがあちこちに淋しく漂うことになるのだなと思った。
P26 27
結婚生活とか、夫婦に全然希望を持ってない感じ笑
都会で感じる「淋しさ」の正体は実際こういう側面もあるのかなとは思う。
満員電車でストレス抱えながら、ローンで金銭や住むところもロックされてそのために働くとか、「こらえてない」とは私は思わんけど。
五郎とはあの夜以来、連絡を取ることをやめていた。
留守番電話に声が入っていたときにはいつでも嬉しいと思う自分がおもしろかった。でも、かけなおしたりはしなかった。メールも3回に1回くらいそっけなく返信しただけだった。今ならまだ深入りしないですむ、まだまだそういうふうに思っていたのだった。こわかった。好きになって苦しくなるのがこわくて、いったん東京から逃げ出したかった。
P66
大人になると自分の感情をコントロールしようとするから、相手の出方を見ながら自分の気持ちをセーブしながら進められる。
一歩ずれたら自分が好きになって、のめりこんで、傷つく、までが解る。
だからこわくなる。
自分の体が「いつまでもこんなことをしていられないよ」というサインをしきりに送ってくるのだ。子供を産まない人生とはそういうことなのだ、と理解していた。この時期を過ぎれば、また新しい流れがやってくると、年上の女の人たちはみんな言った。子供を産もうが産むまいが、そういう時期があるんだよと全員が言った。そう、私は子供を産む気なんて全くなかった。子供がいなくてもいられる人生のやり方ばかり考えていた。
P92
これも、私が「なぜ子供をほしいとおもうのか」の答えがでない答えというか、「本能的にそういう時期」というのをアラサー間近になって感じたのでふわっふわしているのに腑におちる。
あぶない。恋愛はいつでも時間を奪う。必ず冷めるとわかっているのに、そのときは巻き込まれて気づかないうちに、いろいろなものを失ってしまうし、私のための時間が減ってしまう。まだ誰にも何かを与えたいというほどには愛していないのに、私はまた私をひとところにしばりつける流れの中に入ってしまいそうになる。
P113 114
恋愛
に関して、大人は臆病になるというが、「自分」「仕事」「家族」など自分の持つパイが解っているからこそ、そこに「恋愛」という制御不能な要素を気まぐれに放り込むことのリスクを感じるのが普通だと思う。
若い頃に恋愛をしてなくて、その「リスク」と自分をコントロールできない危うさをしっていると、ちゃんと冷静に選べると思う。
だから、おいらくの恋、真面目な人の30歳からの恋はみていてとても危うい。
よくあまり好かれていない人の子供ができてしまって卑屈になる人がいるが、どうして共同責任で子供ができて、卑屈にならなきゃいけないのか、さっぱりわからなかった。そういう場合はまず出だしからして卑屈だったのだろうと思う。相手が自分を好きで好きで仕方ない場合でなかったら(もちろんそれは、やりたくてやりたくて仕方愛とは微妙に違うので、女だったらそこを見極めなくてはならない)、どんなに気に入っている人でも寝てはいけないと思う。自分の体が気の毒だ。
P165
一言でいうと自分のリスクになるセックスは控えるべきということ。
ただ、これだけ性がカジュアルになっている世の中ではそれも難しいのかもしれない。
酔っていても、こちらがすごく好きでも、傷つくのも痛いのも女側だということを常に頭に置いておくべき。
そしてあれこれ他のことが考えられないように、脳が勝手に調整されている。全く人間はよくできていると思った。
P203
これは体感しないとわからなかったが、本当。脳のメモリをとられた感じ。
悲しいくらい、自分に「だから女は使えない」という暴言を吐きたくなった。
2つの仕事をやっていると旦那が肯定してくれることで少し救われたが、本当につらかった。
この小説は、最後まで不安や揺れの中にいるけど、ちいさいとっかかりをもちながら、子供がもってきた明るい光を存分に感じながら締めくくられている。
魔法。それはまだ私が体感していない部分。
妊婦やアラサーになってこどものことを考えて揺れている人におすすめの一冊です。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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プロフィール
高知出身の1986年生まれ(五黄の虎)
18歳で脱藩、京都、金沢、富山高岡、能登半島住の転勤族。北陸か高知に大体おります。いつの間にか本籍は新潟県佐渡島に。一児の母。
元肉食系広告代理店勤務だったので、恋愛やお店のPRに関してのアドバイスが得意。
フェイスブック、ツイッターのメッセージ、そしてコチラでもライティングやインタビュー依頼、ブログでやってほしいこと受け付けます。
さかもと みき 作『坂本、脱藩中。』はクリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
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