夫婦で好きな芸能人がいる人も多いかと思いますが、私は、夫婦で好きな作家さんがいます。
佐藤友哉と島本理生夫妻。
才能に惚れてる人が選ぶ人の才能が更に最高なんてそんなのまるっと好きになってしまうよね~。
というわけで、今回は純文学(夫は時々ラノベ)夫婦の奥様の作品、イノセントを読みました。
普通に幸せになりたい美少女×上手な遊び人×カルマを背負った神父の行く先は
<あらすじ>
イベント会社代表の真田幸弘は、数年前に函館で出会った若い女性・比紗也に東京で再会する。彼女は幼い息子を抱えるシングルマザーになっていた。真田は、美しく捉えどころのない比紗也に強く惹かれていく。一方、若き神父・如月歓は比紗也と知り合い、語り合ううち、様々な問題を抱える彼女を救おうと決意する。だが、彼女は男たちが容易に気づくことのできない深い絶望を抱えていて──。
感想:★★★★
時間つぶしのために買ったのですが、思いのほか、良かった…!
あと、美少女と遊び人の男の典型的なもつれ恋愛かとおもって読んだら、お父さんとか、神父とか出てきて一筋縄じゃいかんところが最後まで気になって一気読みしてしまった。
しかもそのうまくいかん原因が、ひた隠しにしている自分の気持ちっていうのも、共感してしまった。
人と向き合い、信じあい、一緒に生きることの難しさを、がっつりと感じることのできる一冊で、読み応えあったし、身に染みた。
女をコントロールしようとする男
父親と娘の関係ってただでさえめんどくさいけど、主人公比紗也の場合は、顔がいいだけの母、それに惚れた義父、母親の蒸発でもう家庭が毒。
若さの蜜を搾り取ろう、コントロールしようとする義父はほんととことん最低やった。
反吐が出るけど、どうでもいい人の人生って人にすがるしか生きる意味なくなるんやろうなって思う。
どうでもいいから、人の幸せなんか望まんどころか、幸せになったらおかしいだろって。でも、人はそういうところもある生き物なんやろうなって思う。
「比紗也。賢くなるなよ」
と男は諭すように言った。粘着質な細い目で。厚くて妙に生々しい唇を開き、続ける。
「女は馬鹿で可愛くなくちゃだめなんだ。賢くなるなよ。本当の感情も出しなさんな。重たい女も賢い女も鬱陶しいだけだよ。捨てられるだけだからな。おまえみたいに弱くて顔だけの女は、男に頼らなくちゃ生きていけないんだから。一人で自立してやっていこうったって、いつか絶対にひどい目にあうんだよ。できるだけ大勢の男に選ばれるように、にこにこ笑って、奢ってもらったら馬鹿みたいにはしゃいで、可愛くしてりゃぁぃいんだ。どんなやつだって面倒臭いことを言い出せば、おまえのことを捨てるよ。心?おまえの考えていることが男に分かるわけないだろう。理解しあうなんて幻想は捨てろ。それより愛想よくなさい。俺の前みたいに。これはおまえができるだけ幸せになるための壮大な訓練なんだからね」
暗闇の中で、砂にまみれた男が滔々と説く。
はい、お父さん。そうだね、お父さん。人形のように頷き続けるP168
これ、悪気なく真面目に思う人もおるよね。ほんと人って怖い。
底の底にある救いの所在
幸せを何度も諦めようとする主人公が拠り所とするキリスト教。
宗教って私は拠り所にしてないけど、人に諦めた時、こういう無形の信じられるものの存在が人を救うこともあるから(狂わせることもあるやろうけど)、一概にはやっぱり否定できん。
今回は、その救いの部分が宗教にうとい私でもわかりやすく、寄り添いやすく書かれていて、読みやすかった。
「じゃあ、なんで俺たちは神を信じなきゃならないんだよ」
「え、信じたいからだろう」
と聖は大きな目を見開いて、きょとんとした。
「でも神が救ってくれないなら約束が違うじゃん。矛盾じゃん」
「違わないよ。最初から、試すな、疑うな、信じろ、尽くせしか言ってないじゃん。その見返りを求めてるうちは、結局約束が守れてないわけだから、神に救われなくても仕方ないし、見返りを求めずに信じられたときには神の沈黙なんて考えないようになってるんだから、矛盾どころか、よくできた論理だよ」
「おまえ、論理って言ったよな。そんなの、結局神はいないと思ってるってことじゃん」
「だから、どっちでもいいんだって。俺たちが選んだのは、神がいたら信じる人生じゃなくて、神がいると信じて生きる人生なんだから。究極いようといまいと、生き方に違いはないんだよ。んなこと言ったらおまえの大好きな中山美穂だって、たぶん一生会えないし話すことだってないし、どんなに好きになってCD買ったっておまえになにしてくれるわけでもないんだから、いないも同然じゃない?」
P200
神がいるという一つのポリシーのような考え方なんやなって。
神がおる、での思考停止じゃなく、自分を動かす筋として神を持つって言う考え方には逆にすごく共感しました。
「そういうときのために神を信じてるんだろ」
「え?」
永遠の命がなんのためにある? 他人を救うためだろう」
「他人を?」
「そうだよ。死ぬのが怖いからじゃない。身を犠牲にして他人を救うためだ。だから歓、そんなのは迷うことじゃないよ。期待なんて裏切られるんだ。当たり前だ、皆、そうやって生きてる。おまえだけじゃない。それでも必死にやったら蟻一匹分くらいは報われるかもしれない。徒労だし理不尽だろう。だけど救いっていうのはそういうもんだ。蟻一匹のために永遠の命を使ってこいよ」
P237
ただ、私は欲にまみれているので、神に仕えることはできんなって思ったけど笑
男と女の難しさ
真田は上手に女の子と遊ぶタイプの男やけど、そこに火をつけるのが女の抱える不幸さやったりするのがちょっとオモシロイ。
出会いのイメージもあるんやろうけど、真っ先に除外しそうな気もするタイプやのに。
男が惹かれる女の影の部分を比紗也はもっちょって、そこにまきこまれていくのを嫌う女友達の心情とかもわかりすぎてヒヤヒヤした笑
「結局、女の子は特に『運命』と『必然』が必要なんですよね。結婚できればいいと言いつつ、“なんとかコン”の中で一番顔が好きだったとかじゃだめなんですよ」
P244
男の思う女のめんどくささ、女の求める男への期待。
それを緩和させてくれるゲイの店長とこちらもすごくバランスがよかった。
この重い物語をいい感じに支えてくれるこちらも「救い」。
「でもー真田さんもモテるでしょう?」
真田は、いやあ、と曖昧に首を振ってから、続けた。
「正直、相手はいてもふられることが多くて。なんで大抵の女って、やると重くなるか怒るかの二択なんでしょうね。同意の上なのに。むこうから誘ってきたときだって」
店長は意外そうに、ふうん、と呟いた。
「真田さんって意外とマッチョですね。女はやると、もれなく恋愛病にかかるんだって。病気なのに放っておかれたら怒るでしょう。そういうもんだと思えばいいんですよ。理屈じゃなく」
と言ったので、真田はグラスから口を離して店長の顔を見た。
「え、なになに。俺、もしかして今いいこと言いました?」
はしゃぐ店長に、曖昧に礼を、言いながら、心の中でひとりごちる。
たしかにオネエではないが男と女の両方を分かってる人だな、と。
P256
大人っぽい付き合いってすごく難しいね~って自分も思うんやけど、根本の大事なところは「相手に素直になること」っていう核心も、ストレートでよかった。
恋ってああ、こうやったなーって物語に入っていけて楽しかったです。
長めで時間かかるかなと思ったけど、後半一気読み、読んでよかった1冊でした。
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