月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボ。
本好き同士、毎月順番に一冊本を決めて一緒に読んで感想をシェアしているつぶあんさん(つぶログ書店)とのコラボです。
前回は私のチョイスで、「夏の闇」を読みあいました。
【オンナノヨミカタ】
https://sakamotodappantyu.com/archives/book-34.html
【オトコノヨミカタ】
https://ytkglife.net/collaboration-book-review-kaiko/
自分の人生を見つめるより、他人の人生を味わう方が容易いのはなぜ
<あらすじ>
愛したはずの夫は、まったくの別人であった。
「マチネの終わりに」から2年。平野啓一郎の新たなる代表作!弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。
宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。
里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。
「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。
人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。
感想:★★★
人間ドラマサスペンスの王道という感じで読みやすく、引きこまれました。
スポットを当てた弁護士の像がかなり良かったです。
弁護士であり、幸福な男性であるはずの男の、幸福のありかを探す感じというか、実感のなさというか、現実と向き合うことの怖さというか…。
賢い人はうごけないんだなー自分のことだと。
なんかそこにすごく人間っぽさを感じました。
Xの影を追う逃避
主人公の弁護士は、仕事の合間のこのボランティアのような事件の真相を追うというミッションを、依頼者への同情や正義感あと自分の生活からの逃避の意味でも追っていました。
なんとなーく、趣味に逃げる仕事人間の夫みたいな感じ。
作中の、後ろを振り返らず走って逃げるような見えない相手の影を追う展開は、意外で、ちょっとびっくりする展開です。
込み入った話でそれぞれ癖のあるキャラクターが出てくるのに、すごくめんどくさいことにならない距離感でいるのも、この弁護士らしい立ち振る舞いでした。
その構成のおかげでサラッと読めるのもあるのかな。
そのキャラに寄らない書き方のおかげで、弁護士である主人公の「逃避」の部分をしっかり書いていて、そこが良かったなぁ。
人が人生で蓋をしてしまうあらゆる場面
大人になると、割り切って物事を進めることが多くなって、それ故、考え込まなくなることも増えます。
「ああ、悪い方向にいきそうだな」
と思っても、考えず放置してしまうみたいに。
弁護士の主人公は、そういった、考えないで失敗したケースをいくつも見る仕事だから、更に客観的に自分を見て、その上で、逃避することをやめられない。
中学生くらいに煮詰まって考える「自分とは何か」、そんな問いに触れることがありながら、その答えを出すところまで行けない。
人種問題のアイデンティティ、そして正しさと悪の間の倫理観、そして自分の気持ちの中で揺れ、自分の気持ちを引き出しあぐねている。
事件を通して、人のあっただろう幸せや人生には実感を感じられるのに、自分の人生となるととたんに確信が持てなくなる。
その上で大人で、賢いから、動けない、一つ一つ確かめながら、間違わないように、すすめていく。
それはまちがいじゃないかもしれないけど、自分の気持ちに更に蓋をしている。
それに変化があるでもなく、物語は終わる。
人は、振り返る時しか自分の人生を見ることができないのかもしれない
主人公の確認する幸せは、私も今日常で感じるまさにそれで、その実態は確かにつかめない。
辛いこと、我慢すること、悩むこと、考えることをやめることで毎日が成り立っている。
ほんの一瞬、「ああ、これが幸せかも」と思った瞬間、指から離れていく。
幻みたいに。
色んな角度から自分の人生や、自分自身についてたまには考えてみたいなーと思いました。
オトコノホンノ読ミ方
そんなわけである男の生きた跡を探す一冊、つぶあんさんはどう読んだのかなー
オトコノホンノ読ミ方、つぶあんさん(つぶログ書店)の書評はこちらからどうぞ!
https://ytkglife.net/collaboration-book-review-a-man/
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