男のめんどくささと色気と、絶望と色欲をビー玉に閉じ込めたような名作「夏の闇」開高健

月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボ。

本好き同士毎月順番に一冊本を決めて一緒に読んで感想をシェアしているコラボです。

前回はつぶあんさんのチョイスで「燃えよ、あんず」。

【オンナノヨミカタ】

ああ、人生という喜劇!踊るのか、踊らされるのか「燃えよ、あんず」藤谷治

【オトコノヨミカタ】

愛すべきぽんこつたちの物語『燃えよ、あんず』【コラボ書評】

今回は私のチョイスで開高健の夏の闇です。

大好きな物書きさんの好きな10冊を読破したくて選びました。

元電通の青年失業家を暴走させた「人生を変える10冊」by田中泰延

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ただぐうたらして色欲と酒に溺れた主人公が堕落の底で紡ぐ美しい文学

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<あらすじ>
ヴェトナム戦争で信ずべき自己を見失った主人公は、ただひたすら眠り、貪欲に食い、繰返し性に溺れる嫌悪の日々をおくる……が、ある朝、女と別れ、ヴェトナムの戦場に回帰する。“徒労、倦怠、焦躁と殺戮”という暗く抜け道のない現代にあって、精神的混迷に灯を探し求め、絶望の淵にあえぐ現代人の《魂の地獄と救済》を描き、著者自らが第二の処女作とする純文学長編。

感想:★★★★★

惚れた。

久しぶりに運命の出会いをしたような、恋に落ちたようなきもちにさせていただきました。

小説や物語って言うより、ホント、ただただ美しい純文学。

普段はいいところを探して抜粋するんですけど、全てが、全てが…捨て文なしの最高な言葉の羅列なんです。

主人公とヒロインの顔も未来も見えない

で、これ、男が堕落していくだけならまあ、ちょっとえぐられずに読めるんですけど、女も出てくるじゃないですか。

自分が裸だからって女も裸にしちゃう。

身体的裸なだけじゃない。

精神的にも裸にして、そして核心をついちゃう。

人生ってね、こういうのを大人になる度ごまかし、隠し、包んで、人様に見えないようにいきてるんだよ。

それを丸裸にしちゃう笑

「ふっと子供がほしくなったりするのよ。以前には考えてみたこともなかったし、頭からふり捨てることにしてたんだけど、夜中にタイプライターをたたいてると、ムラムラッと子供がほしくなるの。こんなときに子供がいたらどんなだろうかと思ったら、矢も楯もたまらなくなってくるのよ。私は不具じゃないかと思えてきたりしてね。バカな話よ。断固として自由を守りぬきたい、そのためには日本も捨てる、結婚も捨てるって誓ったのが、あなたのいいぐさどおり何かを得るためには何かを捨てなきゃならないんだといってたのが、いまになってね。
ときどきそれがひどくなると、男なんかどうでもいい、誰でもいい、試験管ベビーだってかまわないって気持になってくるの。人工授精だって私は平気よ。ててなし子だって何だって平気。私がそうなんだから。かまうもんですか。何だろうと平気よ。こたえない。私にはやれるんだもン。いままで、ほら、やってきたんだもン」
とつぜんまじまじと瞠った女の眼から涙がふきだしてきた。
それはたちまち頬をつたって 顎へしたたり落ちた。女は白い拳をにぎりしめて、白い、たくましい膝においたが、涙は流れるにまかせておき、しばらく耐えていてから、とつぜんソファにたおれた。涙はつぎつぎとあふれ、女は声を殺して静かに泣きはじめ、ときどき嗚咽で肩や腹をふるわせた。崩れてしまったことを恥じるか嘲るかのような仕草で二度ほど拳で、めだたないがはげしくソファを撃った。

P170

これ女が一番吐きたくない弱音だなと思いました。

強がってる女性を自分側に踏み込ませずに自爆させる手法、みごとです。

(褒めてない、最低男って意味で)

言い訳もきれいごともいわないけど、だからって救い上げようともしない。

でも、それが男と女の本来あるべき関わり方なのかもしれないなと思いました。

男と女の。

交わらない部分という意味で。

そして、こういう人がバーの隣で酒飲んでたら、また会いたいなと思ってしまうだろうなと。

読んでてこの人モテるなってよく分かる一冊です。

女が理解不能な男のもっている人生の軸を垣間見る

男って、釣り好きじゃないですか。

女からしたらその楽しさってよく分からないですよね。

特に、バス釣りとか。

食べんのかいっていう。

そんな謎が、この本の中には丁寧に書かれてて、男のよくわからないロマンの部分を教えてくれます。

「これだけ一日じゅう雨に降られて、ボートを漕いで、鉤もとられてよ、蛙もとられたしさ、肺炎になるのじゃないかと私、思ったわよ。そのあげく釣ったのを逃がすっ
て、どういうこと。しかもこれは制限サイズ以上なのよ。持って帰ってもいいのよ。政府はですね、あなたを肯定してるのよ、ウンコちゃん。あなた、ふるえてるわね」
「最初の一匹はいつもこうなんだ。大小かまわずふるえがでるんだよ。釣りは最初の一匹さ。それにすべてがある。小説家とおなじでね。処女作ですよ。だからおれは満
足できた。もういいんだ。魚は逃がしてやりなさい。
「遊びにしてはひどすぎるわよ」
「だからいいんだよ」
「いまになってそんなことを」
「おれたちは遊んでるんだ」

P196

わかったところで、同調できないし、やっぱり「ふーん」で終わるんですけど笑

同棲して、結婚せず別れたカップルを目の前で見たような読後感

休暇に女に溺れ、十分堪能して、そして所帯じみた雰囲気が出てくると危機感を感じ、仕事への言い訳を探す。

男って感じ笑

で、逃げたい姿勢を出してほんまに女が離れるってなると焦るのも一緒。

男ってわからんけどほんとこういう生き物よなーっていうラストでした。

が、でもほんと、最後まで美しく、いい意味で男々しいもたもたがある、ホント捨て文、捨て項のない最高な一冊でした。

男の気持ちがわからない女におすすめの一冊

というわけで、恋愛の向こう側、結婚の手前で恋愛をウイスキーやワインやシャンパンと楽しむような人におすすめの一冊です。

すっごい傑作で最高なんですけど、10代20代じゃうまく呑み込めなかっただろうな。

あとがきも4回読んだってあったけど、今も自分で飲み込むまで一読じゃ足りないと思ってます。

ので、これは人生の友になる本でした。

オトコノホンノ読ミ方

そんなわけで私が惚れてしまったこの一冊、つぶあんさんはどう読んだのかな笑

オトコノホンノ読ミ方、つぶあんさん(つぶログ書店)の書評はこちらからどうぞ!

救いのない時代の救済の物語:開高健『夏の闇』【コラボ書評】

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1986年高知生まれの五黄の寅年、一児の母。 転勤族の妻で今は佐渡島のターン。
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