理想の家庭をもつ主婦が家族にかける義務や正しさという呪い「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー

春にして君を離れ

高知はもう桜が開花とかマジですか?

こちらはまだババシャツ&湯たんぽが手放せません。

さて、月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボももう9本目に!

一緒にコラボしてくれているのは本のプロつぶあんさん(つぶログ)です。

自分が選ばない本に会える楽しいコラボです。

前回は永遠の少女漫画小説家、よしもとばななの一冊を読みあいました。

【つぶあんさん批評】
残酷なまでに、厳密に。よしもとばなな『鳥たち』:【オトコとオンナのホンノ読ミカタ】

【さかもと批評】
死と向き合い、死者の幸福を祈り、死を乗り越える少女の物語「鳥たち」よしもとばなな

今回は、つぶあんさんチョイスで海外文学!!

目次

「私は正しい」自称良妻賢母の押しつけが、家族の人生の足を引っ張る

<あらすじ>
優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

感想:★★★★

妻、そしてお母さん2年目になる私にはゾッとする1冊でした。

多分結婚してなかったら自分の実家を重ねて終わりやったけど、自分も家族の人生の「加害者」になりかねん、と読んでてヒヤヒヤしました。

優等生のまま結婚して母になった幸せ専業主婦の欠点とは

順風満帆にきた人の人生の危うさって何だと思いますか?

イレギュラーなものを認められない「正しさ」という暴力を他人にふるってしまうことです。

正しい人は、他人の痛みや、落ち込んでいる人の気持ちがわからないんです。

悪気なく、正しいことしか言いません。

「正しい」人生は、個人で生きるならそんなに問題ないかもしれません。

でも、結婚して、夫婦になったら、家族が増えたら、状況は変わります。

二人で道を選ぶのか、「正しい」道を選ぶのか…

この小説は、「正しい」道を選んだ幸せ主婦の人生が書かれていて、母に呪いをかけられた他の家族の不幸が見えてゾッとします。

経験や感情を軸に人生をたのしむのか、「正しさ」を模範に生きるのが正解か

学生時代の友人だった「優等生」な主人公と「不良」の友人が久しぶりに会って話をする場面では二人の人生観の違いが垣間見えます。

「人間なんて、まあ、そんなものよね。しがみついていた方がいいのに、投げ出しちまったり、ほっとけばいいのに、引き受けたり。人生が本当とおもえないくらい、美しく感じられて、うっとりしているかと思うと――――たちまち地獄の苦しみと惨めさを経験する。物事がうまくいっているときは、そのままの状態がいつまでも続くような気がするけど、そんなことが長続きしたためしがないんだし。どん底に沈み込んで、もういっぺん浮かび上がって息をつくことなんて、できそうにないと思っていると、そうでもない――――人生ってそんなものじゃないの?
それはジョーンの人生観、あるいは彼女の知る限りの人生の現実とあまりにもかけ離れた意見だったから、とっさに適切な受け答えらしいものも思い浮かばなかった。

P27 より

模範的に生きてきたおばさんと、今を楽しむために犠牲も払って生きてきたおばさん。

どう生きるかに関しては正解がありません。

でも、個人の考えを家族に押し付けることから悲劇が始まります。

物語の中でいえば、この2人のどちらの家族も種類の違う被害者になっています。

片方の家族はは母に捨てられ、片方の家族は母に支配されるのです。

人生にとって何がたいせつなのか?

「世間の人って、幸福以外のことは考えないようですけれど、でも幸福が人生のすべてではありませんわ、世の中にはもっと大切なことがあるんですもの。」
「たとえば?」
「そうね――」ととジョーンはちょっとためらった。「たとえば義務ですわ」

P213 より

この物語では、妻の正しい人生のための義務を優先したために、夫が人生のやりたいことを我慢しています。

旦那が転職したいと言った時…

それってめっちゃ身近な機会ですよね。

私も、旦那が会社を辞めたいと言った時、

さかもと
何もやりたいことがないままやめてもおんなじになるやめなや、やりたいことができたら考えや

と止めたことがあるのでドキドキしてあの時それでよかったか聞いてしまいました笑

夫婦になると、人生という船のかじ取りは二人でするものですが、家庭によっては、旦那主導、妻主導があるんでしょうね。

この小説は完璧に妻主導です。

尻に敷かれてる旦那は、一回これ読んで考えたほうがいいですよ。

あれ?加害者は私?

私がこの本を読んでこころがざわついたのは、結婚して子どもがいるのもあるのですが、それよりも、母親との関係で思い出したことが多かったからです。

物心ついたころから、母ではなく、私が「正しさ」を振りかざして母を責めていました。

「普通は」という言葉を振りかざして、母を怒っていました。

母はよく「なんであたしがあんたに怒られないかんがよ」と言ってました。

普通なんて、私の家では誰ももってなかったのになぁ。

正しいものじゃないことに怒り、おかしいと感じ、正論でねじ伏せていました。

主人公ジェーンと一緒ですね。ヒエ。

実家を離れ、結婚して、今の距離になってやっと、家族は私から解放されたのかも。

「正しさ」を押し付けられると主張できなくなる

私が加害者で、被害者である私の家族がどうなったかを知る今は、「正しさ」の呪いがいかに人の人生を狂わすかがよく分かります。

うちは、私が暴君だったので、母だけじゃなく、お姉ちゃんに虐げられる弟も、被害者でした。

それを救うものは、物理的距離しかありません。

家は、私という「正しさ」の呪いが遠のいたことで、救われた部分もあると思います。

こいつ、何をしてこんなに自己肯定感強いん?

本の感想に戻ります。

本を読んで、ちょっと冷静になると、このジョーン、ろくでもない女やと思ってくるんですよね。

[aside]ジョーンがクソ専業主婦な理由
●働かない=専業主婦だから
●家事=家政婦がいるから指示と小言、褒めはしない
●料理=コックがいるから指示と小言、褒めはしない
●子育て=自分の気に入った家柄のいい子とパーティーを勝手に開いて子どもが連れてきた友達には無愛想
●友人=みんな自分より汚くてみじめで可哀そう
●従順な夫=農場を経営する夢を全否定され、休みなく弁護士事務所を経営[/aside]

まとめただけでもイラっとしますね。

お友達になれないですわぁ。

ほんとこいつ家でなにしてるんやろって思う暮らしぶりです。

夫は夢を諦めて毎日働いてるし。

ただの鬼嫁。

この小説は、共感できつつ強烈な反面教師になります。

ロマンティック・サスペンスとうたわれてたので、どんな内容かと思ったら、マジでこいつがサスペンスでした。

家族に会話が必要だけど会話できないとどん詰まりになる

めっちゃ主人公の悪口言いましたが、正しさを振りかざす妻、母と家族は会話をするのをだんだん諦めます。

最初に諦めたのは、夫ですね。

そして長女、次女…末っ子は一目散に逃げていく。

離れるのが一番の解決法なんですよね、悲しいですが。

でも、家族って他人になりきるのも難しいから、呪いは続きます。

小説のクライマックスで、お決まりのその呪いが溶けそうになるんですが……ね…。

家族とのかかわりを考えさせられる内容の濃い一冊ですので、是非読んでみてください。

オトコノホンノ読ミ方

というわけで、これまた母の、妻のドロッとした世界感を、男性はどう読んだかがすごく気になります!笑

オトコノホンノ読ミ方、つぶあんさん(つぶログ)の書評はこちらからどうぞ!

https://ytkglife.net/absnt-in-the-spring-review-collabo/

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1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。 転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。 家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。 2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。
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この記事を書いた人

1986年高知生まれの五黄の寅年、3児の母。
転勤族の妻でうっかり新潟で家を買って辞令を震えながら待つ身。
家買ったら転勤のジンクスに負け、両親、義両親に続き旦那が本州から離脱。
2023年4月から「絶対に倒れてはいけない3人ワンオペママ」ライフがスタート。鼻血。

コメント

コメント一覧 (3件)

  • この小説、怖いですよね。ジョーンは超嫌な女なんだけど、私はロドニーの方が最低な男だなと、何回読んでもそう思います。結局、ロドニーも子供達も、自分に都合悪いことジョーンのせいにして逃げてるだけなんですよね。おそらく彼らも自分は正しいと信じて疑っておらず、ジョーンの価値観みたいなものを全否定してるわけですし、その辺彼らもジョーンと同類な気がします。まあ、長女だけは、駆け落ち未遂の時の父親の言葉からそのことに気づいたっぽい感じなんですけど・・・。
    人間の嫌な部分をこれでもかこれでもかと見せつけてくる感じで、ほんとに読むたびにユーウツな気持ちになれる素敵な本(笑)です。

    • 分かります。向き合わないのも、気持ちの浮気も、気づいてしまったら悲しいですもんね…
      夫婦の関りって如何に難しいか、自分の幸せの軸はしっかりしているけど、相手はどうなのかって不安な気持ちになる一冊でした。
      子どもも、敏感に感じて、しっかり見ていますもんね…

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