月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボも3本目になりました。
一緒にコラボしてくれているのは本のプロつぶあんさん(つぶログ)です。
オンナノホンノ読ミ方
本に関わるお仕事をしているつぶあんさんが今回選んでくれた本はあの勝新太郎さんの自伝・エッセイ。
勝さんのイメージは破天荒な玉緒さんの旦那さんというイメージでした。
いやー、時代が惚れた人ってガチで格が違うんですね。
酸いも甘いも善も悪も男も女も全ての出来事と踊って楽しんでしまう漢の生き様
昭和の名優・勝新太郎の人生録。強烈な人生を駆けぬけた「かつしん」が、ハワイでの逮捕以後、自らの幼少期や役者時代を振り返り、書き下ろした1冊。解説はプロ書評家の吉田豪。
感想:★★★★
いや、これきっとこの人書いてないでしょ。
伝説を持つ俳優やし、捕まった人やし、破天荒で忙しそうやし…
エピソードいっぱいあるし、どうせ身近な人が書いたり、ゴーストライターがそれっぽくまとめたやつながやないがかなー
そう思って読みはじめてびっくり。
これは、真似とかでかけるものじゃない笑
個性がそのまま文章に出ちゅう。
豪快で、気持ちよくて、ぶっとんじゅうし、そして悲しいし、美しいし、心を打つし…
うっかり勝さんのことを好きになりました。
兄と穴兄弟のエピソード
物語は逮捕されたことからはじまり、本当に生まれたころを振り返り、自分の生い立ちや自分を作ったものを丁寧に記しています。
生い立ちを書くのはやさしいが、自分がどんな人間か書くということがこんなにむずかしくなるとは思わなかった。
世話物もどきに生まれ育って 俺のどこが俺だろう P41
かと思いきや、少し大きくなってすぐに「色」の話に。
でもね、初体験のところの描写はなんていうかこうゆうたら変ながやけど、その最初に感じる違和感や嫌悪感や絶望を男も抱くのかという発見があった。
いつの間にか俺の上にまたがり、顔をしかめて、息を吸ったり吐いたりすすったりしている。
下からその奥さんを見て、
(歯が痛いのかな、この人は歯が痛いのに何でこんなことをするんだろう)
何かもらしてしまったような、おねしょをしてしまったような、だらだら流れていくような感じが、身体の中を走った。
(もう朝はこない。この世は終わりだ)
中略
(こんなひどいことが俺の身体に起きるなんて。神様、何の罰ですか)
中略
(俺はもう死んでいるのかもしれない)
中略
(夢なのか。きっと夢なんだ。すぐにこの夢は覚める。きっと覚める)
中略
(この世は終わった。俺も終わった。もう一生、朝はこないだろう)
すべての音が止まり、なんにも聞こえてこなくなった。
朝が来た。嘘だ、なんで窓が明るくなってきたのか。よく平気な顔で朝が来るもんだ。
ふとんの中には、俺ひとり。奥さんはいない。世話物もどきに生まれ育って 十三歳の花柳病 P67.68
しかもこんなに絶望しちゅうのに、奥さんのところに通ってしまうようになるとこなんて、男の性を感じて面白かった。
おまけに、兄も通いよったって…勝さんは悲劇を喜劇にして楽しむタイプやったんやろうな。
絶対一緒に飲んだら楽しい。
でも恋に落ちたら地獄へも落ちるタイプの人笑
ちなみに私の聞いてきたデータ的にも、本当にいい男って、ほんま初めては年上の女性に奪われてることが多いです笑
「女は怖いけど女好き」はそんなところからはじまってます。
芸と恋
舞台や三味線をもともとやってて、そっちで行くと多分本人も思ってた感じの時期が続きます。
恋の話では、悲恋の時代劇を見ているみたいな気分に。
もどかしくて、ページをめくる手がとまらんなった。
自分をしっかり持ちながらなにか持ってないものがある男って、愛しい。
与えたくなる。
これはね、すっごく分かる。
勝さんに惹かれて惚れる女は苦労するようにできちゅう。
あっちの芸者衆に惚れられたり、こっちのお嬢さんからも惚れられたり、女の人と顔が合うと、“やられちゃうんじゃないか”って怖くって、怖くって、落語じゃないが「饅頭怖い」。
色恋ざたは手ほどき無しで うらみつらみて、かこち泣き P106
心のしこりになるような恋の話が赤裸々にかかれちょって、心を掴まれた。
映画と家族が好き
読み進めていくうちに、勝さんの正直さって人が愛してしまう大きな原因の一つやろうなって感じる。
(バンザーイ、ありがてえ、俺の子供が…どうやって生まれてきたのか)
と言っている心と、ほかに生まれるはずだった子供たちのことが、俺の心の端をすうーっと走った。映画と家族への愛情 わが子、真粧美と雄大 P227
これはね、玉緒さんも読むやろうし、こうやって書けるのが本当にすごい。
言わんでもいいけど、言うてしまう。
心に、世間に正直すぎる。
そんなことがよぎりながら、すごく惹かれたのが次の引用。
男の人がこどもを最初に抱いた時の気持ちって言葉が少ない気がするがやけど、勝さんの感想はすごかった。
除夜の鐘の鳴り始めに真粧美を抱いた時の心持は、…字ではかけない。言葉も出ない。「無」という輪の中の幸せが、回ったような、地球から離れていくような、神々しい神を抱いたような…。足は宙に浮き、気力は体中から抜け出し、無気力に真粧美を抱き、玉緒も抱いていた。
時の止まったような、すべての生命力が一つになったような、自分の意思でなく、親子三人抱き合っていると、百八つの鐘も鳴りやんでいたが、響きの余韻が謝の中からでていかない。映画と家族への愛情 わが子、真粧美と雄大 P228.229
うまいとかわかりやすいじゃなく、精いっぱい言葉に近づけた感動がこれやと思うと、その場を見たような錯覚を持つ。
ああ、男の人の最初に子供を見たときのにっこりした笑いの中で起こるスパークってこんな感じながや…って。
生き方=仕事
読み進めていくと、この人は生粋の役者なんやって思い知る。
人の与えるストーリーを食べて自分なりに出す。
人に合わせたほうがたいていのことは楽やから、大人になってわがままを言うのって実は大変。
でも、自分の正しいを曲げれん人でもある、まっすぐな人はこうなるがやなって思った。
こういう人は身近におるけど、そういう人は人生が楽しそう。
人に合わせる人生って、誰の人生になっちゅうがやろう。
本人でもないし、合わせゆ人の人生でもないし。
でもそういう自分の人生不在の人が結構おる。
遊びは芸のこやしになるっていうけど、遊びの中でぶつかった地獄道を通る時に、芝居を使う時がある。そんなところが、芸のこやしになるのかもしれない。
素顔と演技の裏表 俺の映画、俺の芝居P243
勝さんは全ての出来事を演技に活かせると思ってヒヤヒヤ感まで楽しむ人。
マネできません笑
まねる・まねぶ・まなぶ
最後はとりとめなく、今考えていることだったり、感じていることが書かれている。
ずーっと走ってきた勝さんが、逮捕というぽっかり空いた立ち止まる時間で振り返っている物語なのかなと感じる。
人間というのが、何なのかわからない。どうあるべきか。なんてわからない。
ああ、いい渡世だなあー 自分らしさ P336
今は肩書があるほうがわかりやすいし、うっかりひねくりだしてへんな肩書を自分でもつけてしまったりする。
でも「人」って本当はいろんな面からみて、分かりやすい利害より、なんとなくとか感じて付き合うから肩書に頼らんで、本当は「自分」であるだけでいいがよな…ってはっとさせられた。
あと、最近自分でも必要やなっておもいよったことがまんまかいちょった。
まねるー自分の選んだ人のまねをする
まねぶーそのまねた殻からぬけだす(殻を破る)
まなぶー一人前になり自分だけの個性で人生(芸風)を歩いていく素顔と演技の裏表 雷ちゃんの匂いP246
これを読んだらわかるけど、ドオリジナルに見える勝さんでも、まねるからすべてははじまって、それを昇華して本物になったのがすごく分かる。
マネって私が思う以上に大事やったがやなって、30歳過ぎてからわかりました。
おわりに
あとがきで知ったんですが、
勝新太郎が「かっこいい!」って舞台で殺しに行くシーンでドクター・ドレーの曲使った話しヤバイ笑
— さかもと みき (@mikimiki060606) 2017年9月16日
勝さん、クラブもお好きだったみたいです。
わかっちゅうー笑!!!
さて、歌も歌うし、映画もあるし、他の関連本も気になるし、どれから勝新太郎ワールドを攻めようか今悩んでます。
素敵な本を選んでくれたつぶあんさん(つぶログ)ありがとうございます!
あー、楽しかった!
オトコノホンノ読ミ方
つぶあんさんの書評はこちらからどうぞ!
男性の目線とはやっぱり違うのが面白い。
【オトコ×オンナ書評・過去記事】
つぶあんさん⇒【コラボ書評】「人殺しパラダイス」人の殺意は蜜の味?
さかもと⇒もしも言葉にしなくても相手に心が伝わるとしたら自分はどうなる?「人殺しパラダイス」ヒキタクニオ
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