弱さを抱えながら生きていく大人たちのキラキラしない人生「コールド・スナップ」トム・ジョーンズ(訳:舞上王太郎)

コールド・スナップ

さて、月に一冊、同じ本を読んでオトコとオンナでどう読み方が違うかを楽しむ書評コラボ。

とうとう10本目になりました。

一緒にコラボしてくれているのは本のプロつぶあんさん(つぶログ)です。

自分が普段手に取らない本にも出会える楽しいコラボ。

つぶあんさんも私も本の虫で基本はマメなんでしょうね笑

そんな本好き仲間に会えてうれしいな~

前回は翻訳本でアガサ・クリスティーの「春にして君を離れ」読みあいました。

【つぶあんさん批評】
人生では価値観が揺らぐことが一番怖い。1人の女性の回想。アガサ・クリスティ『春にして君を離れ』

【さかもと批評】
理想の家庭をもつ主婦が家族にかける義務や正しさという呪い「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー

翻訳本、面白かったので、今回は私の大好きな作家、舞上王太郎の翻訳本にしました!

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FACK!と叫びながらも人生は時々きれいで続いていく

<あらすじ>クソったれのボケってなもんだ。神はどうして私にこんなことしたの?
暴力・痛み・性・死……サノバビッチとジャンキーまみれのファックライフ!
村上春樹『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』でもおなじみ、トム・ジョーンズの
作品をあの舞城王太郎が初翻訳。解説:柴田元幸。

このリズム、息づかい、疾走感。トムとマイジョーは、たぶん魂の双子です。
—-岸本佐知子

感想:★★★

いつもなんですが、舞上王太郎の文体ってぶっ飛びすぎていて、異次元へ連れていかれるので、眠る前の読書にはぴったりなんです。

夢と現実の間に飛ばしてくれるというか…

かといって眠たいだけじゃなくて、なんというか生々しいイメージが残るのも夢っぽくて…

よかったです。

でもやっぱり翻訳の難しいところで、名前を掴むまでに頭が行ったり来たりしたり、舞上王太郎的な文面の意味は通っているけどごり押しで一文にまとめたけどこの勢いならわかるだろ?的な活きのいい文体なので、物語に入るまでの玄関がそれぞれの物語でちょっと重いかな。

でも、読み終わるころには、主人公の心の前向きさと、小さな絶望の積み重ねと、その人生の中の意味と、なんていうか、どこにも行けないリアルさの向こうに見え隠れする美しさが見えてしまっていいんだよね…いいんだよ…

最初は医者の話しかでてこんのかなと思ったけど、後半はボクサーの話になったり、女性が主人公の話があったり、色んな景色を見ることができる短編集でした。

普通の人にはあんまりおすすめできんけど、パチスロやお酒やら軽い薬に人生を支配されてる気がするけど、抜けれない…みたいな状態人に読んで欲しいですね。

あとはメンヘラとか人生なんてクソと思っている人にはしっくりくる名作だと思います!

因みにトム・ジョーンズは、3本短編集をだしていて、1本目はあらすじで一言載せてる岸本佐知子さん、2本目がこれ、で3本目も舞上王太郎が翻訳するらしく、網羅する予定。

要するに、この変な生臭い感じの作家トム・ジョーンズ気に入ったってことです。

あんまり細かく書評しているのがないので、目次通りにかいつまんで感想書いていきます。

短編集「コールド・スナップ」目次ごとの詳細書評10

10本もあるので、大分かいつまみます。

コールド・スナップ

寒波(コールド・スナップ)は、主人公と妹の不安定な人生をそばで見ているお兄ちゃんの話。

結構美人なスーザンが精神的にちょっと不安定で、自殺ばかりを繰り返していて、ある日銃で自殺を図ろうとして顔の一部をふっとばしてしまう。
その後病院に入ったスーザンにたまに会いに行くお兄ちゃんの気持ちの浮き沈みとか、後悔とか、やっぱり妹のことを考えていることとか、一緒にいる時に病院に帰れなくて怒られてもまあいっかと思いながらこういう生活は続けられないんだなぁと思ったりする。

兄弟二人で一緒にサンドイッチを食べる時や一緒に話している時の二人のワクワク、前半の憂鬱で重い話を全部吹き飛ばすさまが、人生みたいでいいなと思った。

いい瞬間は、ずっと続かないし、人生のきらめきみたいなもんは、ふっとかすめて通るだけっていう感じ。

スーパーマン、我が息子

一番情景が浮かんだのがこの話。

会いに行かないといけないけど、会いに行ってもいい話がないのはわかってるから足が重いけど行かなきゃいけないみたいなのがすごく伝わってくる。

血を絶やしてしまうことへの諦めって、男の人はひっそりと実は持っていて、でも本当に無くなるのか…くらいにならんと自覚できんよね。
なんかその悲しさとかむなしさとかが伝わってきた。

息子は重い躁鬱、叔父は糖尿病のゲイ、その後退していくだけの家族に会いに行く足の重さ、ちょっとしたあきらめを吹き飛ばす息子嫁の明るさ…

陰影のある作品でした。

ジャングルの奥のとても深い場所

僻地でヒヒと暮らす内科医の話。

なんか人に相手にされず、動物との共存を試みるさまが、犬の散歩が家庭での唯一のくつろぎの時間みたいな日本中のおじさんとシンクロした。

人は疲れてる。

関わるのも、新しいことをするのも、教えるのも。
でもそれが仕事だし、割り切るべきだし、慣れるべきだし…その中で何かを失うのかもしれないけど…っていうことを考えさせられる作品。

飲みながら殴り合いをするのとか、ヒヒがお酒を飲んで木から落ちて二日酔いになるのとか面白かった。

流砂

ある飢餓撲滅運動のセールスで一穴開けた主人公が、現地で悲惨な体験をして帰る途中に足止めを食らいながら満身創痍になっている時に女神みたいな美人女医が現れて夢のような時間を過ごすけど、病院で薬物をかっぱらってラリって全てをぐしゃぐしゃにする話。

「どうしてステラジンなんて飲んでるの?」とラーズが訊く。
「精神病院でくれたんだ。悪い薬じゃないよ。ステラジン…生きていることなんて夢を見ていることと一緒さ」
「なるほどね。『ルンペンシュティルツヒェン』はおとぎ話だよね。抽象的なお話。でもあれはつまりあなたの本心の現れだったわけだ」
「俺の部屋に戻ってセックスしようぜ」
「私生理になったの」とラーズは冷たく言う。
P145

ルンペンシュティルツヒェンの小人が可哀想って言うのを自分に重ねて話すのも切なさ倍増

男の自尊心の保ち方とか上げ方って難しくてめんどくさいし、思うように報われないビジネスマンが多いんやろうな~。

ピックポケット

糖尿病で人生の色々を諦めているおっさんが、ある方法を試すことでその症状が和らぎ、人生が明るくなる様子を10ページ以下でまとめた短い話。

ウウ~ベイビーベイビー

1,000人切りを目指して800人ちょい越えで限界を感じる美容整形医のおっさんと、あらゆるところをいじった美しい中年の女医のドライブとセックスと死への考え方の考察からの心筋梗塞きたかも!死なんか怖くないけど…っていう勢いがいい感じで終わる話。

楽な死などというものはない。人間の器官は丈夫で、死ににくいものなのだ。

中略

死はそれほど悪いものじゃない。それはただ死ぬことに過ぎない。天国なんかない、が、おそらくきっと地獄はある。いよいよお陀仏になったときにも、何も起こらない。ファッキング・ナッシング。

中略

残念なのはリンダとメンドシーノまでドライブし、ステーキやらサワークリームの載ったベイクドポテトを食べて、ボトル五百ドルくらいの、質の良さの証として腐ったような香りがするようなしかっかりしたワインを飲んで楽しむ、というようなことが出来ないことだ。

P199

冒頭に出てくるサンタモニカの通りには行ったことがあって、それだけでちょっとシンパシーを感じた。

ロケットファイア・レッド

一番好きカモ。

サーフィンが趣味のボリジニーの血が入った女の子の主人公が、レースにのめりこんで、小さな恋心の消失と共に全く違うモデルの世界に行く話。

私はもうドラッグレースに興味がなくなり、サーフィンもやめる。私の仲間のブルーイを失ったせいじゃない。お祖母ちゃんが死んだせいでもない。人生ってものが色あせてしまったのだ。
P220

人生が色づいていく勢いと、喪失感とか、次に進む感じが、女性らしい強さを描いてるから好きなのかも。

私を愛する男が欲しい

生まれつき身体が不自由で多くの自由や楽しみを体感できずに、天井と壁だけを見ることに人生を費やしている女性の恋と友達と死の話。

父や母や友達との関係にうんざりしつつもなかなか死ぬことさえままならない彼女が、死ぬことを決めて、薬を飲むときの解き放たれた解放感というか、救われたみたいな気持ちが文面からガンガンに伝わってきて、今生きている人生というクソみたいな側面は単なる一面である、もっといいところがある…とまるで薬をやっている人みたいな気持ちをちょっとだけ味わえる作品。

友達が、同じように薬一気飲みで胃洗浄したので一寸はらはらしながらも、死という開放を求めている人が必ずしも間違いじゃないんじゃないかと思ってしまった。

誰かを信頼したり信用したりするには、相手の言うことを聞いて、それから相手の話をそのまま受け入れるんだ。言っていることが本当で、考え抜かれている内容なら、そしてある程度時間をおいても―つまり相手のことをより知るようになり、友人になる位の時間が経って―その時まだ相手が正しいと思えるなら、相手が差し出してくるものを何もかも信じてやるんだ。サイコパスな犯罪者として俺はこれこそがっもっとも重要で必要不可欠な真実だって学んだよ。最初のうち、お前がカールに対して感じることは本当に全て本物だっただろう。けどその後、そこには嘘が混じり始めたし、お前は自分が信じたいからって理由でそれを信じようとした
P244

恋は人生を捻じ曲げる。

「ったく悪いカルマがそこらじゅうにほとばしりまくってるぜ。哀れなカール、奴はあれもこれも欲しがってばかり。そんで自分の子供を駄目にして、お前も駄目にしてる―あいつは可哀想なマザーファッカーだよ。それにお前、既婚者としょうもないことしてて罪悪感もあるんだろう?実際お前にも責任があるぜ」

中略

「その上自分のやってることを正直に堂々とさらけ出す勇気もねえんだからな。どんどん図々しくなってるし。今すぐあいつんとこ行って眉間撃ち抜いてきてやってもいいんだぜ、自分で手を下すのが嫌なんだったら。あいつどこに住んでるんだ?」

P247

刑務所から出出来たばかりの友達に圧倒されながらも、裏切った恋人を殺すんじゃなく自分で死のうとするのは、人魚姫みたい。

ポットシャック

アメリカの海兵隊の中で生活していて、ロッカーが半開きになってて中身を見られて「お前はダメだ」とののしられ、罰として厨房の食器洗いを一ヶ月もすることになった主人公が、そこにいたクソヤローとのうんざりな日々が書かれている。

罰を命じたクソみたいな上官じゃない、いいやつの上官がその後2人を皿洗いの現場から引き上げてくれて、チーム戦の狙撃でそのいいやつの上官を二人がサポートし、いい上官は出世するけど、その出世の後すぐに戦場で死んでしまうという、なんとも言い難い話。

男の名誉や出世や、人となりってなんだろと思うけど、そんなものが渦巻きながらも、人の命ってすぐ消えてしまうし、出世して戦いに挑むのっていいことなのかなとふと思ってしまう。

ちょっと切ない話。

ダイナマイトハンズ

当て馬のボクサーのトレーナーの話。

偶然とはいえ、人を貶めてしまったら、それを背負って生きなければならないのが人生っていうのを、張り付いた後悔と共に生きるしかないことを思い知らされる。

人はどこから強くなるのか、男のなかなか見えない本当の優しさとはなんなのかがわかる作品。

昨今のヘタレ男子どもが振りかざす「優しさ」じゃない背負う「優しさ」が書かれてて好きだった。

男の切なさや諦めやらきらめきやら優しさやらが詰まってた

舞上王太郎好きなのか、トム・ジョーンズが好きなのかわからないので、他の翻訳本もみてみます。

いい本でした。

オトコノホンノ読ミ方

つぶあんさんは初舞上王太郎だったそうなんですが、文体や世界観、しんどくなかったかな…

この男の世界観の濃い短編集を男性はどう読んだのか…気になる!笑

オトコノホンノ読ミ方、つぶあんさん(つぶログ)の書評はこちらからどうぞ!

人生で唯一確実なものがトラブルだ。:トム・ジョーンズ『コールド・スナップ』【書評】

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コールド・スナップ

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